どうして凝固点降下が起こるのですか?

授業で凝固点降下を学びましたが、どうして凝固点降下が起きるのか分かりません。詳しく教えてください。宜しくお願いします。

ご回答

ご質問には、付帯条件がつきます。それは、溶液を凝固したときに、溶媒の固体だけが析出する場合にかぎります。そういう場合の実例を沢山観察した結果、人間は凝固点降下ということに気がついたのです。発見したといってもよろしいでしょう。さて、それが何故起こるのかに対する分子レベルでの一般的な解答はありません。少なくとも、現時点では。ただし、熱力学と言う体系のなかでは、現象の意味を一歩突っ込んで整理することはできます。あるいは、熱力学の体系内で問題を言い換えることはできます。

■ケミカル・ポテンシャル■
ケミカル・ポテンシャルを知っていますか? J.W. Gibbs(1839-1903) と言う天才が発見した量です。 名前の付け方がすばらしいですね。 ケミカル(化学種)としてのポテンシャル(可能性・有効性)というわけです。 これは、濃度・温度に依存します。 無論、圧力にも依存しますが、いまは、圧力は一定としておきましょう。
 
たとえば、砂糖水(A)と水(B)を掻きまわさずに静かに混ぜたと考えてください。 人間の経験によれば、砂糖は砂糖水から純粋の水のほうに移動して同じ濃度になろうとしますね。 専門用語では「拡散する」といいます。 つまり、砂糖のケミカル・ポテンシャルは濃度の高いほうが高いのです。 当然ですね。 というより、そうなるように、ケミカル・ポテンシャルを定義したと言ってもよいでしょう。 従って水のケミカル・ポテンシャルは純粋な水のほうが、砂糖水の中の水より高いわけです。 これが第1点。
 
■エントロピー■
第2点は、ケミカル・ポテンシャルの温度依存性についてです。 つまり、温度を微少量下げたとき、ケミカル・ポテンシャルは増えるか、または減るかという問題です。 それは、エントロピーの正負によるのです。 エントロピー知っていますか? これも、Lord Kelvin(1824-1907)とか、R.J.E.Clausius(1822-1888) とかいう天才たちが、気がついただいじな量です。 後に、L.Boltzmann(1844-1906)と言うもうひとりの天才が、「エントロピーとは、システムの乱雑さを表す量だ」という、美しい説明をしたのです。 それによると、たとえば、液体の水と氷をくらべると、どちらのエントロピーが大きいとおもいますか? そうですね、液体のほうが固体よりもより乱雑ですから、液体のエントロピーのほうが、より正、氷のそれはより負ですね。
 
前にもどって、もし温度を微少量下げたとき、ケミカル・ポテンシャルはどうなるかという件です。 もし、その系のエントロピーが正ならば、ケミカル・ポテンシャルは上がります。 負ならば、逆に下がります。 これは、ケミカル・ポテンシャルとエントロピーの基本的な関係式のためです。
 
■凝固点■
もうひとつ、液体を冷やして初めて固体がでる温度が凝固点ですが、この温度では、液体のケミカルポテンシャルと固体のケミカル・ポテンシャルが等しくなるのです。 「ケミカル」としての、「ポテンシャル」がおなじであるから、固体の状態と、液体の状態がこの温度に限って共存できるわけです。
 
■凝固点降下が起こる理由■
これで、だいたい必要な概念はそろいました。繰り返しますが、凝固点降下は「何かが溶けた液体を冷却していったときに、溶媒のみの固体が析出してくる場合」に限ります。 たとえば、均一に良く混ざった砂糖水では、冷却すると、純粋な水の凝固点(あるいは、融点)0℃以下(以下というのがだいじです)で氷が析出してきます。 砂糖は残った液体に溶けているわけです。 シャーベットを想像してください。 ようするに、カキ氷にシロップをかけたような状態ですな。(ちかごろは、町でみかけなくなりましたが、”寅さん” 映画にはときどきでてくるのを見た事があるでしょう。)
 
さて、まず純粋な水の場合を考えましょう。 0℃では、純粋な水の液体状態と、固体状態での水のケミカル・ポテンシャルは相等しい。そこで、液体のほうが砂糖水になれば、水の濃度は純粋なものにくらべて低い故、そのケミカル・ポテンシャルは低くなり、0℃では氷のケミカル・ポテンシャルと同じではなく、氷は析出しません。
 
温度をを0℃からすこし下げましょう。 固体の氷のほうのケミカル・ポテンシャルは下がって行きますね。 なぜならば、氷のエントロピーはより負で、しかも温度を下げていますから、氷のケミカル・ポテンシャルは下がってきます。そして、「砂糖水ちゅうの、水のケミカル・ポテンシャル」に近づくわけです。
 
一方、「砂糖水ちゅうの、水」のエントロピーはより正で、しかも温度を下げていますから、「砂糖水ちゅうの、水のケミカル・ポテンシャル」は上がりはじめ、氷のケミカル・ポテンシャルに近づくわけです。従って、0℃以下の(以下と言うのが大事です)ある温度で両者のケミカル・ポテンシャルが同じになり、ついに氷が析出してきます。 これが、凝固点降下です。
 
したがって、何故凝固点降下がおこるかの回答は、「砂糖水ちゅうの、水のケミカル・ポテンシャルは、砂糖濃度が上がれば下がる(水濃度が下がれば、下がる)」ということと、「固体のほうのエントロピーは、液体にくらべてより負であるからだ」と言う事になります。
 
以上ごちゃごちゃ書きましたが、 これらは、式を使えば簡単です。大学生になって、熱力学の基礎を習ったら、自分で式を使って納得してください。
 
■分子レベルから見た「凝固点降下」■
先に、分子レベルでの一般的な説明は無いといいました。 私どもの研究グループでは、2-Butoxyethanol(アルコールの一種)と水を混ぜた場合、簡単に言うと、水の水素結合が壊されることを見出しました。 氷ができるためには、水素結合が完全に出来上がらねばなりません。 従って、この水溶液から氷を析出させるには、壊れた水素結合を修復する分だけ、低温のしなければならないのです。多分似たようなことが他の水溶液でも起こっているのでしょうが、各ケースを詳しく調べなければなりません。 また水以外の溶媒ではどうなのか、まだまだ問題は残っています。

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