チョコレートのテンパリング(温度調節)について

チョコレートをテンパリング(温度調節)する際、少量の水が混ざると、チョコレートがぼそぼそになってしまうのはどうしてなのでしょうか?ピーナッツバターでも同様の状態になりました。メカニズムが知りたいので教えて下さい。 また、ぼそぼそになった物を、元に戻す方法はありますか? あと、テンパリングのメカニズムも教えて下さったらとても嬉しいです。

ご回答

■チョコレートは油脂の結晶■
結晶、と聞いて思い出されるのは、雪の結晶や、あるいは鉱物の結晶など、無機的なイメージがありますが、実は、チョコレートは油脂の結晶です。ですから、液体の水が冷やされると氷(結晶)が生じるように、チョコレートも温度によって、ばらばらの状態から秩序だった状態に変化したりします。
 
■チョコレートの構造■
チョコレートの構造を右図に示します。チョコレートは、全体の30%を占めるココアバターの結晶中に、砂糖、カカオマス、粉乳などの微粒子が分散した結晶分散系です。 ちなみにココアバターはカカオの種子を発酵させ、乾燥させた胚乳を搾って抽出した植物油脂で、室温で安定させた状態では固体です。 チョコレートが室温ではパリッと割れ、口の中で溶けるのは、ココアバターの性質によるものです。
 
■チョコレートのテンパリング■
チョコレートをお作りにならた方はご存知かと思いますが、チョコレート作りでは、テンパリング(温度調節)が非常に大切です。チョコレート作りのレシピを見ても、「溶かしたチョコレートをいったん26-27℃にさげたまましばらく保存し、それを30-31℃に上げた後、再び冷却します。」などと書かれていて、とても厳密で、込み入っています。でもそうしないと、チョコレートの品質が落ちてしまいます。この品質の劣化の現象のことを、「ファットブルーム現象(ブルーム現象)」と言います。車のボンネットにチョコレートを置いたままにしておいたら、チョコレートが変色してしまって美味しくなかった、という経験がおありかもしれません。これも、温度変化によるブルーム現象です。
 
ココアバターの結晶は、5種類の形があることが知られています(?形、?形、?形、?形、?形)。売られているチョコレートは?形です。これに温度変化が加わると、?形から?形に変化(相転移)してしまったりします。これが、チョコレートの質が落ちる(ブルーム現象の)原因です。

チョコレートのテンパリングの操作が厳密なのも、この相転移に起因しています。単純に冷やしただけでは、?形の結晶を作ることができないのです。バレンタインデーに自分でチョコレートを作ろうとして、市販のチョコレートを溶かして、すぐに冷やして固めてもうまくいかないのはそのせいです。テンパリングの作業では、まず微量の?形、?形を作り、それから少し温度を上げると、それらが?形に変化(相転移)します。この?形が種結晶となって、その後の冷却過程でココアバターの結晶がすべて?形となります。

■ブルーム現象が起きないチョコレート■
さて、温度変化があっても味が落ちないチョコレート(ブルーム現象が起きないチョコレート)を作ることはできないものでしょうか? このためには、ココアバターの結晶?形から?形への相転移を阻止する必要があります。阻止の仕方として、幾通りかの方法が考えられますが、有力な方法として、「種結晶を添付して、?形結晶が成長しやすいようにする。」方法が挙げられます。ただ、この種結晶にも条件がありまして、例えば、添付したときに、この種結晶が溶けてしまったら意味がありませんから、種結晶の融点は高くないといけません。また、この種結晶の構造が?形と一致することが理想的です。さらに、安全に食べられるものでなくてはなりません。
 
これらの条件を満たす種結晶として、私たちと明治製菓株式会社、不二製油株式会社の共同研究で、BOB(B:ベヘン酸、炭素数22の飽和脂肪酸)のβ2型を見出しました。また、このBOBのβ2型の種結晶を加えると、ココアバターの?形の結晶が容易に生成されるようになることを確かめました。
 
さらに面白いことに、普通のチョコレートでは、37℃に上げてから冷却すると、ブレーム現象が起きます。しかし、BOBのβ2型を添加したチョコレートは、37℃に上げてから冷却しても、BOBのβ2型(?形)が残っているため、ブレーム現象が起きませんでした(図3)。

このBOBのβ2型の種結晶を利用して、「冷蔵庫で冷やして食べるチョコレート」が生まれました。夏では普通のチョコレートは溶けてしまいますから、チョコレートを食べて残りを冷凍庫に入れておくと、ブレーム現象が起きてしまいます。そこで再び冷却してもブレーム現象が起きないように、BOBのβ2型の種結晶が添加されています。また、その後、クッキーにしみ込んだチョコなどのたくさんの新しいチョコレートも生まれています。
 
■テンパリングの際に水を入れるとぼぞぼそになってしまうのは何故?■
さて、ご質問の、「テンパリングの際に水を入れるとぼそぼそになってしまうのはどうして?」ですが、「チョコレートの構造」の項でも述べたように、チョコレートは、結晶粉末である砂糖やフレーバー、カカオマスなどの粒子が分散したもので、それらの粉末は全体としてなめらかなココアバターの結晶に包まれています。テンパリング中に、温度を上げてココアバターを融解させているうちに水分が入ると、水に溶ける砂糖が水分に溶け出し、固まりはじめてキャラメル状になって、ぼそぼそになります。そうなってしまったら、いくら温度を下げても上げても元には戻りません。「もったいな」と思ったら、ぼそぼそのチョコの温度を40℃前後にしておいて、そこへ濃縮ミルク(全体の20ー30%)を入れて、強力にかき混ぜているうちに、生チョコに変っていきます。それを冷やしても、かたいチョコにはなりませんが、バナナをチョコで包んだチョコフォンデユなどのクッキーが出来ます。
 
専門的な言葉を使えば、チョコレートは固体粒子に固体粉末が分散したサスペンション。生チョコは、ミルクに油脂が分散した水中油型のエマルションです。ピーナッツバターも、原理は同じです。

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