チョコレートの溶かし方と固め方-生クリームと低脂肪牛乳の違いによる影響

チョコレートを溶かすときになぜ生クリームは大丈夫で低脂肪牛乳では分離してしまうんでしょうか? 水が入ってはいけないというのはわかりますが、生クリームと低脂肪牛乳(加工乳でないもの)の差は単純に脂肪分の割合なのでしょうか?

ご回答

■チョコレートとは■
チョコレートは、ココアバターの固体(結晶)に砂糖や粉乳(ミルクチョコレートの場合)、カカオマス粉末などの固体微粒子が分散した、サスペンション状態の食品です。

植物油脂であるココアバターには、油に溶ける香料(フレ-バー)や苦味成分がその中に溶け込んでいます。一方、甘み成分の砂糖やミルクチョコレートの中の粉末ミルクなどの水溶性成分は、チョコレートの中では固体粒子となっています。この状態を、サスペンションといいます。チョコレートには少し水分が含まれていますが、それは水溶性の固体粒子に吸着しています。

ココアバターはカカオ豆から得られる植物油脂で、その中に含まれる脂肪酸は、他の天然油脂には見られない特異な組成(ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸を主体とする)となっています。そのために、図2のように、温度を変えながらココアバターの中に含まれる固体の割合を調べると、低温では固体量が極めて多く、逆に30℃前後から急激に減少します。

この性質は、牛乳から作るバターや、他の植物油(たとえばオリーブ油)とは大きく異なっています。そのために、ココアバターを使うことによって、室温以下では十分に硬くて、しっかりと固まるために表面が滑らかとなり、パリッと割れる心地よい手触りとなりますが、口に入れると速やかに融けて、香りと甘みや苦味がたちどころに口に広がり、チョコレート特有のおいしさが生まれます。

このチョコレートを家庭で作ろうとすると、しばしば失敗します。典型的な失敗は、溶かしている間に誤って水が入ってがちがちに固まることや、湯煎を使わないで直火で溶かしたために、チョコレート生地ががちがちに固まり、さらに熱すると油分と水分に分離することです。さらに、溶かしたチョコレートに牛乳や生クリームを入れて柔らかな「生チョコ」を作るときに、しばしば水と油に分離するという失敗です。特に、低脂肪牛乳を使うと生チョコができません。

さらに、湯煎などを使って上手に溶かしたあとでも、冷やして固めるときにテンパリングなどの熱処理を行わないと、型からうまく離れないことや、室温に放置する間に表面が白くなることです。

以上の失敗は、サスペンション、エマルション、結晶多形という、チョコレートに関わる物理的性質に起因しています。

■チョコレートを溶かすときの注意と、生チョコの作り方■
まず、湯煎を使う理由は、水に溶ける成分と油に溶ける成分を分離させないためです。チョコレートには、油に溶ける成分と水に溶ける成分が固体状のココアバターの中に分散しています。微量な水分も溶け込んでいますが、それは砂糖や粉乳に付着しています。

もし直火で溶かすと、チョコレートの粘度が高いために熱の対流が起こらず局所的に温度が上昇して、ココアバター結晶が焦げてしまうだけでなく、水溶性成分も溶け出してしまい、それが油相成分と分かれてしまうのです。いったん油相成分と水相成分が分離した場合は、どのように強くかき混ぜても、そのままでは均一に分散させることはできません。

湯煎でゆっくりと溶かす理由は、チョコレートの中の固体のココアバターだけを溶かして、砂糖粒子や粉乳粒子は固体のままにして分散させるためです。その場合でも、少しでも水分が入れば、そこに砂糖や粉乳の粒子が溶け込んで水相ができてしまい、あっという間に油相と分離してしまいます。

油相と水相が分離した場合は、再びチョコレートに戻すことは不可能です。しかし、強い力でかき混ぜながら、チョコレートと生クリームを2:1の割合で生クリームを少しずつ加えると、ガナッシュクリーム(生チョコ)を作ることができます。この生チョコの形を整えて、その上にテンパリング(後述)したチョコレートをかけたりココアパウダーをまぶすと、高級チョコレートができます。また、チョコレートと生クリームを1:2の割合にして、ホイップさせた生クリームにチョコレートを少しずつ加えると、「チョコレートムース」ができます。

ただし生チョコを作るときに、低脂肪牛乳を使ってはいけません。それは、普通の牛乳や生クリームと低脂肪牛乳では、エマルションという物理状態を安定化させる働きが違うからです。

■エマルジョンとは■
エマルションとは、水と油のように互いに混じりあわない2つの液体が、界面活性剤の働きによって、一方が互いの液体の中に微粒子として分散した状態を言います。

エマルションには油(oil)の中に水(water)の粒子が分散したW/Oエマルションと、逆の分散状態となったO/Wエマルションがあります。バターやマーガリンはW/Oエマルション、牛乳、生クリーム、マヨネーズなどはO/Wエマルションです。

チョコレートを口の中に入れて溶かした瞬間に、舌の上でココアバター結晶が溶けて図1のサスペンション状態からW/Oエマルションになり、脂溶性成分が口中に放出されます。つづいて、唾液の水分が加わりそれが口の中でかき混ぜられて、次第にW/OエマルションからO/Wエマルションへと変化します(これを転相といいます)。すると水溶性成分が口中に放出され、脂溶性成分とのハーモニーによって、あのチョコレートのおいしさが生まれます。

ところで、牛乳は水の中に脂肪球が分散したO/Wエマルションですが、脂肪球の周りの膜構造は、図4に示すように、たんぱく質、脂質、糖タンパク質からなる4層構造となっています。このような複雑な膜構造を構成している成分は、いずれも界面活性剤としての性質を備えています。これらの界面活性成分は、牛乳の中の脂肪球を水に分散しやすくするだけでなく、脂肪球を互いに反発させたり機械的に強くして、脂肪球を凝集させないようにしています。

したがって、O/Wエマルションである牛乳からW/Oエマルションであるバターを作るためには、この膜構造を破壊して脂肪球だけを分離して取り出す必要があるので、水分を少なくする(生クリームがその状態)とともに、機械的な力で強力に攪拌しなければなりません。

湯煎で溶かしたサスペンション状態のチョコレートに、牛乳を少しずつ入れると、最初は牛乳の水分がチョコレートの中の水溶性成分を巻き込んで分離して、がちがちになります。これは、いったんW/Oエマルションになってから油相と水相に分離するためですが、強くかき混ぜながらさらに牛乳を加えると、脂肪球の周りの界面活性成分の働きで、水相の中にココアバターと乳脂肪が分散したO/Wエマルションができます。これがガナッシュクリームです。O/Wエマルションをつくるためには、図4に示した牛乳中の脂肪球の周りの界面活性成分の働きが必要ですから、水分に比べて乳脂肪成分の多い生クリームが最適となります。

溶かしたチョコレートに水だけを加えるのでは、O/Wエマルションを作るための界面活性成分がありませんから、当然にうまくいかないのです。低脂肪牛乳の場合も、水相に比べて脂肪球が少なく、界面活性成分の量が不十分なためにO/Wエマルションができないのです。

なお、チョコレートの中に生クリームを入れるときに、強く攪拌しながら少しずつ入れるのは、界面活性成分が水相と油相の間にうまく吸着して、O/Wエマルション構造を壊さないようにするためです。一度にたくさん入れると、界面活性成分が油相を水相に分散させる作用がうまく働きません。またチョコレートムースを作る場合に、ホイップした生クリームに溶かしたチョコレートを少しずつ入れるのも、ガナッシュクリームと同様に、O/Wエマルションの構造を壊さないためです。

■固めるときのテンパリングの必要性とコツ■
ココアバターには、融点や密度や形などの物理的性質の異なるさまざまな種類の結晶構造があります(結晶多形現象)。6つの結晶多形のうちで、V型とよばれるものだけが最適の物理的性質を示し、それ以外の多形ではチョコレート製品としては不合格となります。なぜならば、V型より少し融点の低いIV型は、溶かしたチョコレートをそのまま冷やした状態で出来る結晶多形ですが、融点が低すぎるし、密度も低いので型から離れにくいのです。

また、IV型は不安定であるために、しばらく室温に放置しているうちに、V型やVI型に変化し、その過程で表面に小さな結晶がばらばらに出来で白い粉を吹いた状態となります。これをブルーム(花が咲くという意味)といいます。一方、最も融点が高い安定なVI型は、融点が高すぎるために口の中で融けにくく、ざらつき感がして風味を損ない
ます。

したがって、通常はチョコレートの中のココアバターがV型の結晶として固まるように、冷却-昇温―再冷却という温度変化を伴うテンパリング操作を行います。

■テンパリングの手順■
テンパリングを家庭で行う手順は、以下のとおりです。

まず、部屋の温度を25℃以下にしておきます。チョコレートを入れる容器と、2つの湯浴を用意し、はじめに1つ目の湯浴を使って、約50℃でチョコレートを溶かします。速やかに溶かすためには、チョコレートを細かく2-3センチメートル程度に砕いておくと良いです。

次に2つ目の湯浴の水温を5~10℃にしておき、融かしたチョコレートを入れた器をその中に短時間浮かべて、チョコレートを少しずつ冷却することを繰り返します(一気に冷やさない)。

最終的にチョコレートの温度は26-27℃にして、その温度に保持したまま、ヘラなどを使って約10分間チョコレートを十分に攪拌します。このときの温度が重要なので、チョコレートの温度を正確に測るために温度計を使います。この段階で、ココアバターのIV型の結晶ができます。攪拌しているうちにチョコレート生地に少し粘りけが出てくるのは、IV型の結晶ができるためです。

  • その後に、1つ目の湯浴にチョコレートの器を移動して、攪拌しながら再び少しずつ温度を上昇させます。この段階では、いったんチョコレート生地の粘り気が消えますが、しばらくすると再び粘り気が出てきます。それはIV型のココアバター結晶が融解して、V型の微結晶(種結晶)が発生したためで、この種結晶が次の冷却段階で、チョコレートの中のココアバター全体をV型に固める役割を果たします。
  • チョコレートの温度が30℃になったら、まだ固まりきっていない溶融チョコレートをお菓子用の型の中に入れ、その後で、中に入った気泡を抜くために、型全体を機械的に振動させます。
  • 最終的なチョコレートの冷却は、20℃以下の部屋であれば一晩放置すれば十分で、必ずしも冷蔵庫(5℃)を使う必要はありません。むしろ冷蔵庫を使って急いで冷却すると、テンパリングの効果が減じる場合もあります。

以上の操作条件は日本の標準的なチョコレートを想定したものであり、使用するチョコレートのなかのココアバターの種類(産地で異なる)が変われば、テンパリング温度は微妙に変化します。
 
たとえば、夏用の耐熱性の高いチョコレートを使う場合は、全体に1-2℃高めに設定し、冬用のやわらかいチョコレートの場合には逆に1-2℃下げます。さらに「冬季限定型チョコ」の場合は、2-3℃下げます。また、欧州製のチョコは全体に融点が低くやわらかいので、標準より低めにテンパリング温度を設定します。
 
テンパリングにおける失敗のうちで、チョコレートが固くなりすぎて型に入らない場合は、2回目の昇温過程でV型の種結晶を作るための練り時間が長すぎたか、その温度が30℃よりも低すぎたためです。もう一度湯煎を使って50℃前後で溶かして、テンパリングをやりなおせば良いです。
 
また、チョコレートを冷却させた後にブルームが発生したら、テンパリング中で生じたV型の種結晶の量が少ないためで、その場合も、種結晶を作るための温度管理を正確に行ったうえで、練り時間を増やすようにテンパリングします。

なお、上記のテンパリング操作をしないで、融解したチョコレートを単純に冷却する途中で「種結晶粉末」を添加して、ココアバターをいきなりV型で結晶化させる方法もあります。 これはココアバターと類似した脂肪酸組成を有する油脂の安定結晶粉末を、少量添加させる方法です。この方法を用いれば確実にチョコレートを固めることができますが、それは家庭用ではなく業務用に使用されています。詳細は油脂メーカー(たとえば、不二製油)に問い合わせてください。

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